DigiKey Make ONE Challenge 2026 に応募して落選しました — 提出した開発記録の中身
概要
電子部品ディストリビュータの DigiKey が主催するものづくりコンテストです。作品を ProtoPedia に登録し、Google フォームで応募する形式でした。何らかの賞を取れれば Maker Faire Tokyo 2026 での展示につながるものです。
結果は 一次選考で落選 です。
提出したもの
ProtoPedia のプロジェクトページに、ReLow60 L-HE の開発記録を丸ごとまとめました。回路・金属加工図面・ファームウェア・設定ツールまで一人で設計・開発した過程の全体像です。
回路・ケース・ファームウェア・設定ツールまでの開発記録
このコンテストは「何を、どう作ったか」を問うものだと理解したので、思想的な話は最小限にして、測って・比べて・決めた過程を中心に書きました。以下、提出内容から主要なところを抜粋します。
Archetype09 — 9キーから始めた実証実験
いきなり 60 キーの基板を起こすのはリスクが大きすぎます。まず Archetype09 という 9 キーのテスター基板を設計し、センサーとバイパスコンデンサの選定から始めました。
ホールセンサー3種の比較
DRV5055A3(Texas Instruments)・MT9102ET(MagnTek)・GH39FKSW(GH)の3種のホールセンサーを同一基板に搭載し、ノイズ・感度・リニアリティ・温度ドリフト・クロストーク・動的応答・セトリング・スキャンレートの 8項目のテスト をすべて実施しました。
結果、MT9102ET が温度ドリフトで圧倒的に優秀であることが判明しました。±9.2 LSB に対し、DRV5055A3 は ±33.8 LSB、GH39FKSW は ±48.2 LSB です。
ノイズや感度では他のセンサーに劣る面もあります。それでも MT9102ET を選んだのは、キーボードは使用中に温度が変化するため、ベースラインのずれが小さいことが実用上いちばん効いてくるからです。カタログスペックの優劣ではなく、使われ方から逆算して選びました。
バイパスコンデンサの比較
ホールセンサーの出力ピンには、高周波ノイズを除去するためのバイパスコンデンサを接続します。このコンデンサはセンサーの出力インピーダンスとともにローパスフィルタを形成し、MUX の切替ノイズや MCU のクロックノイズを抑制します。一方で、容量が大きすぎるとセンサーの応答速度が低下する可能性があります。
そこで 0nF(なし)/ 1nF / 2.2nF / 4.7nF の4条件でノイズとセトリング時間を比較しました。
結果、2.2nF でノイズが約 20% 低減し、4.7nF と同等の効果を確認。セトリング時間への影響もありませんでした(理論 RC 時定数 τ = 10Ω × 2.2nF = 22ns で、ADC の1変換時間 ~700ns より十分短い)。2.2nF を採用しています。
テスター基板で直面した困難
Archetype09 の開発自体も一筋縄ではいきませんでした。ここも隠さず書いています。
- 全5枚が起動しない — MCU(AT32F405)が電源投入後リセットから抜け出せず、USB も SWD も応答しない。数日間の調査でチップ不良を疑いましたが、大学の先輩の指摘で NRST のプルアップ抵抗が 3.3V ではなく GND に接続されていた ことが判明。回路図のミスでした
- OLED が表示されない — I2C の SDA ピン(PB5)に対応する Alternate Function が AT32F405 に存在しなかった。ビットバング I2C で暫定対処し、後にジャンパ線でハードウェア I2C 化
- MUX チャンネルのマッピングずれ — 4051 のチャンネル番号とピン番号が非連番であることを見落としていた
これらの失敗すべてが、ReLow60 本基板の設計に活きています。
本基板 — 約70センサーへのスケールアップ
Archetype09 の知見をもとに本基板を設計しました。約70個のホールセンサーを8個の MUX(SN74LV4051A-Q1)で MCU の ADC に集約する構成です。
PCB は2層構成で、裏面を GND ベタとし、アナログ信号線とデジタル信号線の分離、USB 差動ペアのインピーダンス制御、センサー直上のベタ禁止領域(銅箔がホール効果に干渉するのを防止)など、ノイズ対策を施しています。
スケールアップで新たに直面した課題もありました。MUX の切替後のセトリングタイム、隣接チャンネル間のクロストーク、全キー同時スキャン時のループタイム — いずれも9キーでは見えなかった問題です。ADC のサンプリング遅延を 5μs から 8μs に調整することでセトリングを解決し、クロストークは最大 4 LSB で基準内に収まることを確認しました。
このほか、板金ケースの設計、ファームウェア(libhmk のフォーク)、ReConf、実機テストで潰した不具合、ゲーミングバザーでの頒布まで、ひととおり書いています。
落選を経て思うこと
一次選考で落ちたので、審査員のコメントなどはもらえていません。理由は分かりません。
ただ、ProtoPedia のページ自体は、今も自分の開発記録として いちばんよくまとまったもの になっています。落選はしましたが、このページはその後の応募でも参考資料として何度も提出しましたし、AI 活用助成プログラムの対話でも「何を作ってきたか」を説明する材料として提示しました。
コンテストのために書いたものが、コンテスト以外のところで働いてくれた、という感覚です。書いたものは無駄になっていません。
TiB・AI活用助成・DigiKey・QWS の4件まとめ
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