QWS Challenge に応募して落選しました — 「その道具のカタチ、本当に"最適"?」という問い
概要
渋谷スクランブルスクエアにある SHIBUYA QWS(渋谷キューズ) の会員制プログラムです。
このコンテストは、ガッチリと完成したプロダクトが求められるというより、「何をしたいか」「どんな問いを持っているか」 が求められるものでした。実際、応募フォームの項目は次のようなものです。
- プロジェクトの問いを記載してください
- あなたの「問いの感性」は、どのような経験を通じて育まれましたか
- あなたの「問い」は、どのような未知の価値に繋がると考えますか
スペックも、売上も、技術的な難易度も、一切聞かれません。これまで応募してきたものとまったく毛色が違ったので、書くのにいちばん時間がかかりました。
結果は 落選 です。
以下、応募フォームに実際に書いた内容をほぼそのまま載せます。
プロジェクト名
その道具のカタチ、本当に”最適”?(ソノドウグノカタチ、ホントウニサイテキ?)
問い
その道具は果たして、本当に最適な形をしているのか?これが最初の問いでした。
ゲームをするとき、私たちはコントローラーやキーボード、マウスといった道具を使います。それらを仕事道具としているプロゲーマーと呼ばれる職業も一般的になってきました。もちろん、選手によって使う道具は異なります。目的はゲーム操作であることに変わりはないですが、反応速度であったり、押しやすさなどの使い心地であったりは変わってきます。
しかし、大まかな形は昔から変わっていません。一番の例がキーボードです。キーボードは本来、文字を入力するための機械であり、コントローラーのようにゲームをするためのカタチをしていません。そのようなことを考えたとき、果たしてこの道具は最適なのだろうか?もっと最適な形はないのだろうかと考えるようになりました。
概要
ふだん当たり前に使っている道具のカタチを疑うところから出発します。この問いを起点に、使う人の用途に本当に合った”最適な形”を目指したキーボードを開発し、実際に世に送り出します。
とはいえ、いきなり現在の形から大きく離れたものは受け入れられにくい。そこでまず着手するのが、最も道具にこだわる 「ゲーム」の領域 です。市場で受け入れられているプロダクトを観察し、デファクトスタンダードとなっている動作の仕組みを改善した形を出すことから始めます。
具体的には、磁石でキーの入力を読み取る、押し込み量の浅いキーボードです。指の押し込みに応じて内部の磁石が動き、その磁力の変化で入力を検知するこの方式は、従来の金属接点より素早く反応できるため広まりつつあります。ところが肝心の押し込み量は、接点式が主流だった頃からほとんど変わっていません。
検知の仕組みは新しくなったのに、カタチは古いまま。 この矛盾こそ、最初に手をつける具体的な”最適化”の入口です。
応募理由 — なぜQWSで活動したいのか
これまで個人でプロダクト開発を進め、キーボードやゲーミングデバイスに熱心な人が集まるコミュニティの中で意見を交わしてきました。しかしそこでは、評価軸が反応速度や打鍵感といった限られた指標に偏りがちで、視点が 「すでにこの道具を使いこなしている人」の内側に閉じてしまう という課題を感じていました。
「その道具は本当に最適な形なのか」という問いは、ふだんゲームをしない人や、身体の使い方が異なる人の視点を取り込んではじめて深まるはずです。QWS には年代も専門も異なる多様なプレイヤーが集まっていると知り、ここでなら自分の問いを違う角度から観察し直し、思いもよらない違和感や気づきと交差させられると考えました。
「問いの感性」はどのような経験を通じて育まれたか
私は昔から、“自分に合うモノ”を探すのが好きでした。特に道具においては、“使いやすさ”という観点があります。これを分解すると、用途に正しくアプローチができているか、長時間使っていて身体に負担がないか、道具としての耐久性が保証されているか、汎用性があるかなど、様々な指標があります。具体的には、作業効率が上がる、ゲームのスコアが伸びる、メンテナンスコストが下がるなどです。
このような観点から商品を評価し、自分に一番合うと感じたものを選んできました。この分析を進めていくと、いずれ 自分が欲しいけれど市場にまだないもの であったり、ニッチな需要であるため企業の参入が遅れているといったことに突き当たります。そのようなときは”道具を自分で作る”ということもしてきました。
この分析と最適化が、今回の問いと、自分で作ってみるという挑戦に繋がっていると思います。
QWSでは具体的に何を実行したいか
現時点で、磁石を用いた短ストロークのキーボードについて、PCB設計やケースの試作を進め、限定的な形で実機を世に出す段階まで到達しています。一方で、使い心地の評価はこれまで自分や近いコミュニティの感覚に頼ってきました。
QWS ではまず、CROSSTAGE を活用して渋谷スクランブルスクエアの来場者という幅広い層に試作品を実際に触ってもらい、手の動きや押下の癖、使い心地への反応をデータとして集めたいと考えています。
さらに「この道具は最適な形なのか」という問いそのものを掲示し、ふだんゲームをしない人がどんな違和感や疑問を持つのか を引き出したい。そうして集めた多様な反応を、エンジニアとしての技術的視点と、使う人の身体や行為に目を向ける非エンジニア的視点の両方から読み解き、次の試作に反映していきます。
どのような未知の価値に繋がるか
ゲームを最適化するためだけでなく、文字を打つ人、絵を描く人、身体の動きに制約がある人など、これまで「キーボードとはこういう形だ」と諦めて受け入れてきた幅広い使い手が、自分の用途や身体に合わせて入力する道具のカタチそのものを選び直せるようになる — という価値につながると考えます。
なぜ今かといえば、近年スイッチの仕組みが進化し、指をどれだけ深く押し込むかといった従来の物理的な制約から、入力の読み取りが解放されつつあるからです。だからこそ「キーボードはなぜこの形なのか」を問い直せる転換点に来ています。
まずゲームという最も道具にこだわる人たちの間で、指の動きを最小限にした新しい形を世に出し、そこで得た 「カタチは変えていい」 という気づきを、ゲーム以外の場面へ広げていく。
これは単に反応の速いキーボードを一つ作る話ではなく、入力する道具の形は固定されたものではなく、使う人の行為から問い直せるという、前提そのものの転換 です。今は誰もが当たり前に受け入れているこの形を疑うことが、まだ気づかれていない最適解への入口になると考えています。
このほか、活動実績と意気込み動画も提出しました。
落選を経て思うこと
落選でした。渋谷で、普段ゲームをしない人にも試作品を触ってもらいたかったので、そこは素直に残念です。
ただ、この応募のために言語化した 「その道具のカタチ、本当に”最適”?」 という問いは、その後もずっと使い続けています。TiB FAB Makers Challenge のプレゼンは、この問いをほぼそのまま冒頭に持ってきましたし、AI 活用助成プログラムの対話でも自分の設計理念を説明する材料として提示しました。そちらは2件とも採択されています。
落ちた応募のために書いた文章が、通った応募を支えていた、という構図です。プロダクトのスペックを一切聞かないフォームに向き合ったことで、自分が何を作ろうとしているのかを初めてちゃんと言葉にできた、という実感があります。
TiB・AI活用助成・DigiKey・QWS の4件まとめ
ロープロファイル磁気スイッチキーボード