TiB FAB Makers Challenge 2026 に採択されました — 応募からプレゼン審査までの記録

概要

東京都が運営するスタートアップ支援拠点 Tokyo Innovation Base(TiB) による、ハードウェア・ものづくり系のメイカー向け支援プログラムです。量産前試作や工場との連携、機材とアドバイザーによる支援、マネタイズ・事業化の伴走、そして最後に成果発表会という構成になっています。

今後の新製品開発で回路作成を手伝ってくれるメンバーと、2人チームで応募しました。

選考の流れと結果

  1. 一次書類審査(エントリーシート提出) → 通過
  2. 二次プレゼン審査(5分発表+3分質疑応答) → 通過
  3. 採択

一次審査:エントリーシートに書いたこと

エントリーシートは、製品の技術的な説明だけでなく「なぜこのプログラムなのか」「社会実装までのロードマップ」「現段階でわかっている課題や不利な点」まで書かせる形式でした。とくに最後の弱点を自己申告させる欄があるのが特徴的で、ここを正直に書けるかどうかが分かれ目だと感じました。

なぜ、本プログラムに参加したいのか

これまで、回路・ファームウェア・筐体・Web設定ツールに至るまで、原理試作から少量頒布までを個人で成し遂げてきました。技術的な試作は自走できる自負があります。だからこそ次に越えるべきは「量産」と「事業化」の壁です。

本プログラムが提供する量産前試作のプロセス、工場連携、事業化・マネタイズに関する支援は、まさに今の自分がつまずいている部分に直結します。基礎的な開発は自力で進められる分、プログラムでは量産設計・品質保証・ビジネスモデルの構築に集中して取り組み、成果発表会での投資家・支援者との接点を、次の成長につなげたいと考えています。

現段階でわかっている課題や不利な点

ここは飾らずに4つ挙げました。

  • 量産設計・量産試作の経験がない — 原理試作から少量頒布までは個人で到達したが、量産を前提としたコスト低減・品質の安定化・供給体制づくりが未経験
  • 品質保証体制が未成熟 — 磁気式・短ストロークゆえ製造精度への要求が高く、歩留まりの管理や品質保証の方法が確立できていない
  • 市場が限定的 — 現状の顧客がゲーマー・自作キーボード層に偏り、規模が小さい。単発販売に依存しない収益モデル、より広い層への訴求方法が描けていない
  • 事業化・資金面の知見が乏しい — 個人開発ゆえ、事業計画や資金調達の経験がなく、ブランド認知やサポート体制も大手に見劣りする

書きながら、これはそのまま「このプログラムで何を得たいのか」の裏返しになっているな、と思いました。弱点を隠して通っても、得られるものが減るだけです。


二次審査:プレゼンで話したこと

5分の発表と3分の質疑応答です。実機を持ち込んで、こう切り出しました。

これはキーボードです。私たちが毎日、当たり前に使うものですよね。でも少し考えてみてほしいんです。これは文字を打つための道具ですが、その配列や形が、本当に一番使いやすい形として選ばれたわけではありません。

近年は PC ゲームで競技を行うプロゲーマーという職業も現れましたが、彼らが使っているキーボードもまた、ゲームをするための形ではありません。それでも大まかな形は何十年と変わっていない。「この道具のカタチは、本当に最適なのか」 — この問いから設計して作ったのが ReLow60 L-HE です、という導入です。

製品の説明

  • 磁石でキーの押し込みを読み取る磁気式で、ストロークを 0.01mm 単位で検出できる
  • 一般的なキーボードの押し込みが 3mm 程度なのに対し、これは最短 1.5mm
  • 普通の薄いキーボードと同じくらい浅いのに、磁気式なのでどこで反応するかを調整できる

この「浅さ」と「精度」の両立が特徴で、これを回路からファームウェア、設定ツールまで作って、すでに販売しているという話をしました。

新しさは「組み合わせ」にある

プレゼンで一番時間をかけたのがここです。新しさのポイントは単体のスペックではなく「組み合わせ」 だと説明しました。

審査ではこういう比較を出しました(ここでは社名を伏せています)。

ストローク調整精度薄型ハード的な組み替え
ReLow60最短 1.5mm0.01mm
薄型の磁気式 A1.9mm0.05mm×
薄型の磁気式 B3mm〜0.01mm×
標準サイズの高精度モデル3〜4mm0.001mm〜×

磁気式キーボードは大手も出していますが、薄型のものはストロークが 3mm 近くあって薄型の意味が薄い。精度が非常に高い製品もありますが、それらは全部、薄くない標準サイズです。

そして一番右の「組み替え」は、ソフトウェア的な設定の話ではなく、ハードウェア的に市販のスイッチと交換できたり、見た目をカスタマイズしたりできるという意味です。薄型の各社は独自規格のスイッチを使っている場合が多いので、これができません。

「薄型 × 短ストローク」の磁気式は空白地帯で、前例が少なく、大手も試験的な製品にとどまる領域です。薄型・短ストローク・自分で組み替えられる。この3つが揃うのはこの製品だけ — というのが主張の核でした。

机上の試作ではないことを示す

そのうえで、これが机上の試作ではないことを実績で示しました。

  • 大阪のイベントで5セットを頒布し、オンラインでも初回在庫の8セットが発売直後に完売
  • X での告知は 2.7万回閲覧を超え、国内外から反応をもらった

このほか、販路の広がりについても審査の場で説明しています(現在進行中の話なので、ここでは伏せます)。

作れるだけでなく、求められている。 手応えはあります、と締めました。

「作れる」の次にある壁

ここまでほぼ一人でやってきて、作る力はある程度ついたと思っています。でも、ここから先に壁があります。「売る」ことです。

今は小ロットなので原価が高く、量産して安定した品質を作れるかはまだわかりません。そして、単発で売るその先の、事業として続いていく仕組みが正直まだ描けていません。作れるようになった今、次に超えるべきなのはここだと考えています。

このプログラムを選んだ理由は、自分の壁とプログラムが与えてくれるものが、そのまま噛み合っていたからです。

自分の壁プログラムが与えてくれるもの
量産できるか量産前試作・工場連携の支援
品質を保てるか機材とアドバイザーの支援
事業にできるかマネタイズ・事業化の伴走
世に問えるか成果発表会での投資家・支援者との接点

技術的な開発は自分たちで進められるからこそ、このプログラムでは 「売る・量産する・事業にする」 に集中したい、と伝えました。

最後に伝えた、成長したい2点

ひとつは 「作れる人から売れる人へ」。技術をきちんと事業として成立させる力を手に入れること。

もうひとつは 「市場を見て受け入れられる新しさ」を届ける力 です。入力デバイスのカタチをいきなり大きく変えることはできません。だから、使う人に受け入れてもらえる範囲で新しさを刻んでいって、それをちゃんと売る。この革新と売れることのバランスを取る力を学びたい、という話をしました。

その先に、入力デバイスのカタチを問い直し続けられるブランドに育てていきたい、と締めています。


質疑応答

印象に残った質問をいくつか。

「もっと遠い未来の、ぶっとんだ夢を言ってもいい場所なのにだいぶ堅実ですね」

現実的なラインを見ているという点では評価できる、と付け足していただいた上での指摘でした。

入力機器の形は、AI に指示を出すときの音声入力のように、時代に合わせて変わっていくべきだと思っています。今後はまったく別の入力方式にも挑戦したいのですが、いきなり新しいものは受け入れられにくいので、まだキーボードという形に収まりながら新しい形を目指していきたい、と答えました。

「新しいものを売るには知ってもらうことが大事。展示会やイベントに出すのはお金がかかるでしょう」

実際にイベントで販売や展示をしてきた経験と、そこにかかる費用の話をしました。支援があれば自分の作ったものを見てもらう機会が増え、結果的に手に取ってもらえることにつながる、と。

「回路は誰が作っているんですか」

私です、と即答しました。今後複数の新商品を作るとなったら誰かに手伝ってもらうかもしれませんが、現状はすべて自分です。

質疑応答が終わったあと

時間を超えたあとも「せっかく実物を持ってきてくれているし、触らせてほしい」と言っていただけました。見た目もシンプルで格好いい、しっかりした作りをしている、というコメントももらっています。

今回はコスト的にこの見た目が限界でした、と答えたのですが、質疑の時間を超えてまで興味を持ってもらえたのは大きな手応えでした。


これから

採択されたので、ここからは量産設計と事業化に取り組んでいきます。技術的な部分は自分で進められる分、このプログラムでは「売る・量産する・事業にする」に集中するつもりです。